2023-05-12

021 地の果ての優しさ
1967・06 ハンメルフェスト・ノルウェー

ラップランドは 見事に車は通らない

曲がりくねった道 白樺のような林と広々とした草原

山には雪が残っている

夏山の8,9合目のような感じの景色

溶けだした 永久凍土はコケに水溜りを造り

時には小川となり 道にはみ出して流れている

高山植物のような黄色い花も 咲いている 

蚊の大群もいて 狙ってくる

歩いては休み 休憩は日の丸リュックを見せて

森と泉にかこまれて

静かに眠る ブルー・シャトー・・・

力づけに歌うしかない

歩きながら歌う

疲れて小休止していると

? 煙が出ている へんてこな車が来て止まった

窓は全開だった

「こんな辺境で 日本の国旗に出会えるなんて・・・」

夢じゃないか? 日本語ではないか!

助手席の女性が話しかけてきた

「どこに行くの?」

「最北端の街・ハンメルフェスト」

「ガソリン臭いけど 乗る?」

おっかない車が来たものだ

「道がデコボコなのに ジャン・Pたらスピード落とさないから・・・」

道に出ていた岩角に タンクをぶつけたらしい

文句は言えない おっかなびっくりで乗せてもらう

そのうち慣れてきて 臭いは気にならなくなった

ソルボンヌ大に留学中だったレイ子は ジャン・Pと出会った

ジャーナリスト志望の彼は就職先も決まっていて 

ハネムーン旅行の最中だった

久しぶりの母国語会話は楽で楽しい

旅のエピソードは当然ネタとなっていた

やがて分かれ道にやってきた

「ちょっと行きたいところがあるから・・・ パリに必ず来てね」

味噌汁をご馳走すると言うレイ子・Pからアパルトマンの住所を貰う

数か月後パリで再会 味噌汁を堪能したのは言うまでもない

午前1時は過ぎても 夕陽は地平線をのんびり走っている

ラップの子供たちは こんな時間なのに遊んでいた 

時間の感覚が全く分からなくなっていく

最北の景色は 山がなだらに静かな海へとつながっていた

斜面にはポツポツ 色鮮やかな住宅が立っているところ見ると町は近い

絵葉書のような景色に しばし見とれている

1台の車がやってきた

ラッキー つい手を挙げてしまった

中年のおばちゃんが運転しているハンドルの横に

メーターを発見 タクシーだ ヤバイ!

丁寧にお詫びして ごめんなさいをした

何かしゃべっているがわからない

どこに行くのか?と聞いているようだったので

「スオミラトケレマヤ・・・」 (フィンランドYHの意)

頷いて 笑顔で乗れという 

ゼスチャーでお金ない・・・

OK、OK 有難く乗せてもらうことになった

山の中腹にあるユースホステルにやっと着いた

ペアレントを起こしてチェックイン 

2階のベッドルームに案内された 

2段ベッドが4台置いてあった

入り口の上段を指定された 

重いリュックを置き 下段を見ると

身に覚えのある髭男がいた

「着いたよ!」と揺り起こす

何が起きたか理解できない男はジーと見つめ 

意味不明な声を挙げ 

笑顔に変わるのに時間はかからなかった

抱き合って喜んだ

何をやってる???  部屋のみんなも起きてしまった 

ジャック・Wが事の顛末を説明する 

共感を得て ともに喜んでくれた

YHを利用する者に 連帯感は確かに存在した

翌日 朝食を共にすると

「お前はチャレンジャーだ! 

本当に来るとは思わなかった

一昨日着いていたが 

一日待って現れなかったら出かけようと思っていた」 

笑いながら本音を漏らした

「次はどうする?」

また挑戦状? 

二人で今後の計画を練る

当初はこのまま逆コースでヘルシンキに戻る計画を立てていたが

彼の案のほうが数倍もエキサイティングなものだった

気が付けばフィンランドからハンメルフェスト・ノルウェーに来ていた

明日は フィヨルドの中 点在する島々をトロムソまで 

船旅と 洒落こむこととなった

チャレンジャーは君のほうだと心の中で呟いた