2023-05-12

020 未沈まない太陽に・・・
1967・06 ラップランド・フィンランド

最高の思い出の一つになった 

未体験ゾーン サウナ初体験の余韻は

ヒッチハイクの旅も悪くないな! 

刺激は麻薬のように 成功体験として溜まっていく

コツを掴んだお陰で その後のヒッチハイクはまあまあうまくいった

北に行くにしたがって 森が濃くなっていく

ケミから国道4号線はボスニア湾を離れ 北に延びていく

ロバニエミまで タイミングよく何とか繋いで行けた

タイムラグを考えると 時間はかなり費やしていた

全行程の2/3は制覇した ちょっとした達成感で満たされていた

久しぶりの街並みにホッとしている自分がいた

サンタクロースとオーロラの街と ガイドブックには書いてあった

今では氷のホテルやオーロラツアーで 冬は有名な観光地になっているが

52年前は単なる田舎の街であった

スオミラトケレマヤ(FYH:フィンランド・ユースホステル)を見つけて横になる

25kのリュックは重く肩に食い込む

残りの数百キロを考えると頭が痛い

YHはほとんどなく しかも回り道をしなくてはならない

しかも 明日は雨だという

朝食を利用して 目線でそれらしき人を探し

ジャック・Wの真似をしてYHの宿泊客に聞いて回った

一組のカップルが OKしてくれた

感謝して小型車の後部座席に リュックを抱え込んで乗る

かなり狭いが文句は言えない 

ブリュッセルから 夏休みを利用して旅しているという

旅歴を簡単に説明 人生そのものが冒険とロマンを見つける旅じゃないか

いつもの持論を展開すると 大いに賛同してくれた 

ここにも同じ匂いのする人々を 見つけることができた

別れの時はいつか来る 3時間ほどの愉しいドライブは終わった

「サンキュー」 お礼を言ってリュックを抱えて降りる

十字路の角 笑顔で見送る

雨は小降りになっていた

25kのリュックを背負い 傘をさしてとにかく歩く

その頃流行っていた歌を口ずさみながら・・・

森と泉にかこまれて

静かに眠る ブルー・シャトー

あなたが僕を待っている

暗くて寂しい ブルー・シャトー

今の状況にぴったりで 胸に込み上げてくるものがあった

森と湖の国フィンランド 

氷河によって台地が削られ

窪みは湖に残りの大地は森林となっていったと 

何かの本に書いてあった

しばらく続いていた森はなくなり 牧草地と出た

それでも車は来ない

今日は野営を覚悟した

手ごろな橋を見つけ 潜り込む

風雨は避けられそうだ

リュックからパンと生ハムとコーラを取り出し 

腹ごしらえをする

地図でおおむねの現在地を掴む

ラップランドに入っているのを確認

沈まない太陽をみて 思えば遠くに来たものだ 感心する

ジャック・Wはもう着いているかな・・・

北極極圏のモスキート蚊は でかくてしかも大群でやってくる

永久凍土は夏には表面が解け 絶好の蚊の繁殖場になっていた

叩いても 叩いても 際限なく襲ってくる

急いでシュラーフに 潜り込み紐を上まで上げ閉じる

突然の地響きに目が覚める 時計は4時を指していた

シュラーフのジッパーを開け 状況確認

霧のかかった川を 何十万頭というトナカイが渡っている

映画のワンシーンのように展開されていく

凄い!

しばらく 目が離せなかった

子供も交じっていた 立派な角を備えたオスもいた

眠気も覚めたので シュラーフを丸め赤い袋にしまい

軽く朝食を取る

ガスがかかってきた 

車は来ないので 仕方なく歩く

6時間は歩いている 1台の車を見かけない

さらに霧が濃くなっていく 砂利道をただひたすら歩く

家も電線も文明の利器は見当たらない

不安が妄想をつれてくる

俺はもう死んでいるじゃないか

霧ではなく 雲の上を歩いている・・・

聞き覚えのある音が 聞こえてきて段々大きくなっていった

エンジン音だ 

霧から黒い物体が見えてきた

とっさに手を広げ飛び出した

びっくりしたのは 運転手だったに違いない

急ブレーキの悲鳴が あたりに響き渡り 

大型トレーラーは揺れて止まった

運転していたのはおじいさんで 二人の青年も同乗していた

まず急に飛び出したことを謝り

ハンメルフェストに行こうとしていると告げた

日の丸リュックを見て 隣の青年に耳打ちした

一人の青年が後ろに回り お陰で助手席に収まることができた

「キートス」

カタコトのフィンランド語とゼスチャーを交えて

何とかわかって盛ろうと必死だった

どうやって時間つぶしするか なんとかしなくては・・

おどま盆ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんど

盆がはよくりゃ 早よもどる

歌ってしまった

おじいちゃんはハンドルをたたいて喜んでくれた

こんどはおじいちゃんが歌いだした

「ブラボーワンモア」 乗せていく

メロディと雰囲気で感じ取れるものだ

歌の交換会は2時間ほど続いた

「トーゴー、トーゴー」

「?」

ビールだという トーゴ-ビール? そんな銘柄は知らなかった

ゼスチャーとカタコト英語で理解できた

ロシアの属国だったフィンランドが独立できたのは

バルチック艦隊を破った東郷平八郎元帥のお陰と感謝して

ビールの銘にしている 60年前の出来事であった

分かれはやってきた

おじいさんと青年に感謝を告げ

席を譲ってくれた若者に お礼言おうと車の後ろに回った

トレーラーのドアを開けた 強烈な臭いが広がった

家畜を運んだあとらしく息が詰まった

2時間以上暗くて劣悪の中で我慢してくれていた

見ず知らずの他人に なぜそこまで・・・

状況が分かると 涙が頬を伝わっていくが分かった

かの若者は片言の英語で

「お前は東洋の遠い国から俺たちの国を見に来てくれた

俺たちは牛飼い 慣れている 気にするな」

気遣いが嬉しかった

爽やかな若者に感謝を告げ みんなを見送った

ヒッチハイクの旅は

いろいろな人々と知り合い また分かれてゆく

出会いと別れの連続

普通の旅では味わえない たくさんの宝物をいただいた

人生とは 冒険とロマンを求め続けるたびであると

確信した