2023-05-12

017 朝まで・・・
1967・06 ヘルシンキ・フィンランド

太陽の位置で およその時刻を知る習慣になっていた 

時間の感覚が狂ってきた 

相変わらず陽が高い夕方5時発 ヘルシンキ行き 大型クルーズ船に乗る

シリアラインはフィンランド船籍で ストックホルムーヘルシンキは

人気のある航路であった

船室にリュックサックを置きデッキに出る

港を出ると汗ばむ肌に汐風が心地よく まだ見ぬ世界へ想いを馳せる

持参したパンに生ハムを挟み夕食を取る

館内を探検していると 広いホールに出た

ミラーボールが回り音楽が流れていて 人々を踊りに誘っている

同じ匂いのする若者集団見つけ 言葉を交わす

日本で建物を造っていると自己紹介すると

俺たちは牧場で牛を飼っていると返答が返ってきた 

一人がビールを差し出した

「キートス」(ありがとう)

お礼を言ってみんなで乾杯する もう仲良しだ

アメリカでの体験談には大いに盛り上がった

みんな未知の世界に憧れていた

旅を愉しくする秘訣の一つに 訪問先の言葉を事前に勉強しておくことだ

親近感が全然違っていた

日本でも外国人から

「アリガトウゴザイマス」

と言われただけで 距離感も違ってくるのと同じだ

ハイテンションのビートがきいた曲に代わった

踊ろう! ゼスチャーで誘われホール中央で輪になってリズムに乗っていく

当時はモンキーダンスが流行っていて

それぞれ勝手なスタイルで体を動かしている

バラードに曲が変わると自然にカップルが出来上がっていく

それを機に階段を上りデッキに出ると 9時過ぎでも夕陽は真っ赤に燃えていた 

移り行く景色を追っていくといつの間にか ジェリー藤尾の 

どこか遠くに行きたい を口ずさんでいた

知らない街を 歩いてみたい

どこか遠くへ行きたい

知らない海を ながめてみたい

どこか遠くへ行きたい

遠い街 遠い海 夢はるか

ひとり旅 愛する人と 巡り逢いたい

どこか遠くへ行きたい

愛し合い 信じ合いいつの日か幸せを

愛する人と 巡り逢いたい

どこか遠くに行きたい

この瞬間の ピッタリ合った歌詞に鳥肌が立っていた

感傷を壊したのは 先の若者集団の一人

ホールに戻れと迎えに来た

「キートス キートス」

ホールに戻るとまたビールがやってきて 

乾杯で仲良しに戻った

若者に国境はなかった

飲んで踊って

一睡もせずに 朝が来た 

静かな海を滑るように進んで行く船主の先に

島影が大きくなり そこに街が ヘルシンキになっていった

世界的建築家 アルヴァ・アアルト の作品に出会える

想いはすでに フィンランデァ・ホールにあった

現在のシリアライン