2023-05-11

特別編 戦略統括advisorの原点
1963・06 新宿・日本

「お前は後継ぎだから・・・」

常日頃からの口癖に反発していた 高2の夏 

受験勉強をさぼって気分転換 一人で映画を見に行く

大須の映画館は2本立てだった

二本目の映画は 中年男性に16歳の女子高生が惚れる設定の洋画

18歳と偽った主人公が涙ぐましい努力をして

周りを巻き込みながら 最後はハッピーになるラブコメディー

暗い受験生にとって気が晴れる内容であった

何より気に入ったのはオープンカーに乗り

颯爽と現れる男性の職業は建築家であった

建築といえば工事現場しか知らない若者にとって新鮮な驚きだ

憧れに代わっていくのに時間はかからなかった

大学卒業を前にして考えた このまま父親の言いなりになるのは悔しい

このままでは親の敷いたレールに乗ってしまう・・・

もやもやした気持ちから記憶が甦った 

丸めた図面を片手に 颯爽と車から降りる中年男性を

友人の父親に無理やり頼み込んで 後輩の設計事務所に就職を決める

既成事実に父親も 許可せざるを得なかった

代表作ヴィラビアンカは それまでの集合住宅の概念を根底から変えて

業界雑誌に多数取り上げられていた事実を 入所後知った 

当時 若手建築家のホープとまで言われた早稲田出身の堀田英二所長

出会いが人生を変えるターニングポイントであった

ささやかな抵抗が こんなに大きく影響を与える結果となるとは

とても想像はできなかった

昭和33年頃

運転免許は当時16歳から取得できた

年齢制限を待ちすぐ挑戦 小型運転免許証を取得 

親の車を借りドライブ  親の条件は現場に行く運転手

アルバイトもでき 充実した高校生活を送った

その才能を生かさない手はないと考え

自ら志願して 所長の運転手にしてもらった

所内には東大 早稲田 芸大等卒業制作展で全国を回るほど凄い学生が集まっていた

真っ向勝負したら 完全敗北は目に見えていた

図面や書類 手土産の準備をして クライアントの打ち合わせに同行

日光衣川温泉のホテル計画 湯河原温泉ホテル計画 ボーリング場計画等々

仕事は多岐にわたっていた

「世の中には私より優れた建築家は多いが クライアントからの依頼や

コンペにも勝てるのはなぜか解るか?」

青二才にはわからないと答えるほかすべはなかった

送り迎えの車中は絶好の教育現場となっていった

発想はどこから来るか コンセプトの大切さ 出会いの大切さ 

人の見抜き方 人の使い方・・・

ものづくりの基本や建物づくりに必要なノウハウを勉強できた

出張がないときは 図面のお手伝い

現地で全戸調査して ヴィラビアンカの竣工図を完成させた

これは疑似体験という最高の教材となり 

ある意味の大きな自信にもなった

経験と体験が人を育てることに如何に役立つか 身をもって実感した

同期入社の社員には得ることできないチャンスでもあった

競技設計に挑戦するときは全所員が協力し 初心者も所員としての一端を担った

コンペに勝つと銀座で慰労会が開かれ 愉しい思い出となっている

統括プランナーの原点は ここからスタートしたといっても過言ではない

残念ながら所長は胃がんで若くして 他界された      感謝・合掌

事務所の片隅で23歳
16歳の春