フィンランド・YHは国立競技場の中にあった
チェックインしてシャワーを浴びるため ロッカールームにいく
広い部屋にはかなりの人がいて 一斉に視線を浴びた
金髪集団が黒髪男はチラチラ見ている
服を抜いて堂々と シャワールームに入る
街を歩いていると 子供たちが寄ってきて黒髪をおねだりした
我々が金髪を珍しく思うように欲しがった
その頃はまだ髪の毛が豊かであったので 気前よくプレゼントした
「キートス」 かわいい声で合唱 お礼を言い去って言った
フィンランドは他の北欧諸国と違い 言葉はローマ字読みで発音しやすかった
その後もヘルシンキには2回来ていたので 記憶がごっちゃになっているが
フィンランディア・ホールは2回目に訪問の時のようだ
ここもやはり旧市街は 想像を掻き立てる歴史的建造物に出会えた
新しい都市を訪れるとまず旧市街の公園のベンチに座る が加納流
人びとの話し声 鳥のさえずり 樹々のざわめき・・
尽きない刺激や時間を感じて身をゆだねる
基本的には観光地巡りは 興味のあるものしかしなかった
ガイドブックでバックボーンを知り 歴史的建造物は物語を語ってくれる
全体像を掴むにはこの方法が一番と経験から知っていた
後はなるべく足で知ること 距離感や建物位置など脳に書き込んでいく
何年経っても記憶という地図はなくならない
何より便利なことは探さなくてもいいことだ 土地勘が出来ていく
ヨーロッパの街は 日本と違いクラッシュ&ビルドが少ない
街並み保存に力を入れているからである
アムステルダムの住宅を訪問した時
外観は800年以上経っているが室内は 前年に改修工事を終えていた
中古住宅を買ってリフォームして住んでいる
値上がりを楽しみにしているとも言っていた
石造だからできる技である
相変わらず時間感がぴんと来ない夕方 YHに戻る
「どこから?」
顎鬚の男が話しかけてきた
これまでのストーリーを話すと
カナダ人都市計画専攻の大学院生で ジャック・Wと名乗った
来年 オタワ市役所に就職も決まっているという
明日アアルトの作品を見学する予定 下調べは済んでいる
「一緒に行かない?」 お誘いを受けた
もちろんOK
綿密に下準備はされていた
さすが都市計画を目指す大学院生は 違うと感心する
翌日は朝食後すぐ行動開始 ルートは一筆書きのようによく考えられていた
お陰で時間短縮でき 大いに助かった
まだ時間はあることを確認して
「アアルトさんの事務所に行かない?」
突拍子もない提案に
「いいねえ」
賛同してくれたことはいいが
アポも取らずいきなり訪ねる結果となった
閑静な住宅街に事務所はあった
アアルトさんは出張中だとスイス人所員が答えてくれた
折角来てくれたからと所内を案内してくれた
1/20に平面図に驚くのはまだ早かった
原寸図や詳細図は日本で使ってきたサイズよりかなり大きく
ディテェールを大切にする建築家だと感動しながら拝見する
原寸模型も壁に飾られている
所内は博物館の中にいるようで 幸せな時間を体験できた
感想を述べ 今後の健闘の言葉を置いてアトリエを後にした
YHの近くで見学の反省会
ビールで乾杯し意見を戦わせる この瞬快は至福の時だ
その余韻は破るように ジャック・Wが切り出した
胸から地図を出して 明日ここに向かって旅に出るという
指先は ヨーロッパ最北端の街ハンメルフェスを指していた
しかもヒッチハイクで・・・
どちらが早く着くか競争しない? さりげなく言う
ジャック・Wの挑戦状を受けた
ストックホルムで想定外の出費をして
予定変更も考えていた矢先の挑戦状
しかも外国でのヒッチハイクは初めて
スカンジナビア半島先端まで
2000km以上はある YHはパラ パラしかない
永久凍土の北極圏ラップランドの先だ
尻尾を巻いて逃げるか 挑戦状を受けるか・・・
黙っていると
「無理しなくていいよ!」 がカチンときた
逃げるか日本人と言われているようで
「OK」 口から出て 合意の握手までしてしまった
後になってこれまでの旅は 小学生程度のものだったと
知ることになる
シュールな 冒険とロマンの旅が始まる