ランチ事件は ホテル関係者の知るところとなった
親近感のある笑顔はもちろん
バンガローでは南国の果物が良い香りを放っていた
いつものように 昼間は無人島で宇宙遊泳感を愉しんだ
部屋に戻ると テーブルにはカラフルな洋蘭が活けられている
花瓶の下に 一通の手紙が挟んであった
「お話があります フロントまでお越しください マリ 」
高まる動機を抑えて フロントに向かう
スタッフの中でも一番よく気が付く マリが声をかけてきた
「今夜 村祭りがあります 良かったら出かけませんか?」
お! デートのお誘いか?
「OK! 何時?」
「夕食後の8時でいかがですか?」
「じゃ8時にフロントで・・・」
竹の道をまだオレンジ色の残り映えした雲を楽しみながら
華やかな夕食会場に着いた
心なしか みんなお洒落しているように見える
バイキング料理はどうしても食べ過ぎてしまう
今夜は後があるから 腹8分目に抑えた
早めに食事を済ませ フロントのソファで待っていると ぞろぞろやってきた
マリはみんなに特別企画をみんなに用意してくれていたのだ
ブリーフィング後
懐中電灯で足元を照らしながら 密林に慣れているマリが先頭を行く
ホテルを離れると漆黒の森から 切れ切れに見える
無数の星たちは 経験したことのないほどキラキラしていた
突然 ごつん! 鈍い音と叫び声が聞こえてきた
先頭集団が何かにぶつかったらしい
悲鳴の先から 無数の光の粒が飛び回っている
南洋蛍だと直感 まだ見たことはないが知識はあった
蛍たちもびっくりして騒いでいる
マリがさらに大きく樹を揺らすと 大きなクリスマスツリーとなった
「うわー綺麗!」
ぶつけた本人たちも あまりのシュールな出来事に見とれて感動している
こぶができた程度 大した怪我でなくてよかった
再び歩き出す。闇が増して不安が募る頃
村の明かりが木々の間から漏れてきた
でも様子が何か変だ?
しばらくして 半べそ顔で事情を説明するマリ
どうやら最終日は早く終わること知らなかったみたい
「ごめんなさい時間を間違えて・・・」
我々は素晴らしい体験ができてハッピーだから
OK OK 気にしないからと慰める
「ちょっと待って」 言い残し近くの民家の階段を上っていく
しばらくして明かりが灯り
「こちらにきてください」と叫んだ
かの家の住民もさぞ驚いているに違いない
もういいから、 帰りましょうと促すが
「この家は親友の家 家族も訪問を歓迎しているから・・・」
彼女の必死さに負けて 二階のポーチまで階段を上った
大小の靴がきちっと揃えて並べてあった
訪問者たちを驚かせたそれだけではなかった
ピカピカに掃除された竹の床 大きな竹製のテーブルには
バナナや鶏のから揚げ 炒め物やコカ・コーラ・・・
その家にある食べ物を残らず出して勧めている
家族6人のTーシャツは全部PRロゴがあったが 清潔感が漂っていた
笑顔でオバーチャンが話しているのをマリが通訳している
遠い国からよく来てくれた
大したことはできませんが 日本のお話を聞かせてください
要約するとそんな内容であった
精いっぱいの歓迎を受け 異文化の交換会は過ぎていった
改めて人間のあるべき姿を勉強させてもらった
貧乏は辛いこともあるが 悲しいことではない
と言っていたおばーちゃんが忘れられない
清貧な田舎人の見送りを受けて 無口な都会人は帰途に就いた