モントリオール万博の感動を胸に 夜行バスに乗る
99日間/99ドルというお値打ちな グレイハウンドバス
全米とカナダの一部にも運航されていた
トイレや食事休憩は タイミングよく考えられていて
快適で 旅をしている実感を肌で味わうことができた
貧乏旅行者にとって理にかなっていて
滞在していた二か月間 特に夜行バスにはよく利用させてもらった
心地よいエンジン音と揺れは 快適な眠気に誘い
目を覚ます事に景色が変わり 旅を満喫することができた
突然 大きく揺れBOSTONと書かれたバスディポで停まった
時計を見ると午前2時を指していた。
「中途半端な時間だな・・・」
仕方なく重いリュックを背負いバスを降りる
乗客は迎えに来た車で消えていき 一人取り残された
真夜中の街は 人影も車のまばら
深夜レストランでホテルを聞こうと歩き始める
「こんばんは?」
背後から日本語が追いかけてきた
日の丸リュックを見たに違いない
東南アジア系の青年が立っていた
「YMCAホテルはどこですか?」
「歩くにはちょっと距離があるし 説明しても分からないだろう」
困惑している顔に気が付き
少し考えて
「よかったらうちに来る?」
カソリック系の男子校で育ったせいか 世間に疎かった
アメリカに来て「えっ!」というようなことばかりの連続だった
日本のYMCAといえば 厳格なキリスト系の組織だというイメージで
旅に出る前も英会話を習っていた
それがアメリカではその筋の人たちの溜り場でもあることに
気が付いた時には旅に出ていて 前に進むしか道はなかった
それを知らないでYMCAの会員になり YMCAホテルに泊まっている
こんばんわ! の青年を疑っていた
相手もそれに気が付いて
「2-3日しか泊められない ドイツからガールフレンドが来るから・・・」
と言い訳をする
なら大丈夫かと 内心安心して
「ありがとう とても助かる」
笑顔で感謝を伝えた
アルフォンゾはフィリピン系アメリカ人で
ポリネシアン料理「トレダヴィックス」のオーナーの息子
愉快な明るい性格の持ち主だった
翌日にはドイツ人のガールフレンドのドリスや友人たちが集まり
盛大なーパーティを開いてくれた
乾杯が何度も続き やがて彼の罠にはまっていった
すっかり酔っ払ったところを見計らって
「お前は日本人だから 柔道はできるか?」
挑戦的な質問に
「あったりまえだ!」
「黒帯か?」
「もちろん!」
とその場の勢いで答えたものの 柔道は中学1年生の時
少しかじった程度でほとんど初心者だった
「実は明後日の日曜 柔道大会があるけど来るか?」
と聞かれるころには 体が空を飛んでいた
OKとつい調子に乗って返答してしまった
田舎の大会だから 大丈夫と頭の隅で慰めていた
快晴で 爽やかな朝がやって来た
大会の委員長だったアルフォンゾは
ボストンの大きな体育館に案内してくれた
1着しか持ってきていなかった背広の胸に
大きな赤いリボンをつけてくれた
アナウンスに促され会場入りすると、気の遠くなるような歓声で迎えられた