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日時 /2010年6月22日会場 / ローズコートホテル3階アブローズ

講師 渥美和彦(日本統合医療学会理事長)

 私は大阪の北野中学のとき手塚治虫さんと同じクラスで彼が書く4コママンガを皆に回す役をしてました。その後、彼も私も医学部に入って医者をめざした。クラス会で再会した折、彼が「鉄腕アトムのお茶の水博士のモデルは実は3人いて、君もその1人だ」と言われ、私も内心そうかなと思っていましたが本人の口から聞いてはっきりしました。


私はこれまで「電子カルテ」「レーザーを医療現場に導入」「人工心臓」等々最先端の仕事を30年ほどしてきましたが、退官するとき「最先端の医学を研究していても、患者を守ることができない」と気がつきました。病気の原因と結果が科学的につながるということが分かっていても、患者を守ることはできませんでした。


アメリカの最先端と思われている研究所を訪れた際に「代替医療」というものに接しました。当時「代替医療」という言葉自体耳にしたこともありませんでした。アメリカの医学会も最先端医学だけでは必ずしも患者は治らないことに気がつき、最先端医学の反対側にあるような、鍼とか、マッサージとか、ヨガとか、漢方などの中国医学で病気が治るなら、その方向に考え方を変えるというものでした。


医療の歴史を紐解いてみると医学発祥の地は、インド、中国、イスラムなど世界文明発祥と同じで、東洋でした。西洋で医学が盛んになったのはまだ100年ほど前、消毒とか輸血とか麻酔ができ、手術ができるようになった。レントゲンも発見された。つまり科学が結びついて、医学を融解させた訳です。科学は、誰が見ても正しいという「客観性」をそなえています。2番目には「再現性」。今朝起きたことは、夕方にもまた起こり得る。3番目は「不変性」。アメリカで行った手術は、日本でもできる。日本でも患者さんを助けることができるということです。この「客観性」「再現性」「不変性」が近代科学を分かりやすくし、いろんなところに広がっていきました。そのために西洋医学だけが医学であるかのように語られてきたのではないでしょうか。


しかし、医学は西洋以前にアーユルヴェーダ(インド)、中国、ユナニ(イスラム・アラブ)などで始まっています。アーユルヴェーダのような伝統医学があって、その中の鍼、ヨガ、マッサージなどが近代医学に結びつき、統合医学になるわけです。統合医学というのは、近代西洋医学と代替医療あるいは伝統医学を合わせた「患者中心の医学」といえます。


患者を中心に医療を見直してみますと、西洋医学だけでなく伝統的な医学も加えることで患者中心にしていこうという流れが生まれています。「西洋医学だけでは治らない」と気づいたのは、アメリカです。今から20年程前、国民にアンケートをとったところ3分の1にあたる約7000万人の人達が、西洋医学の他にも伝統医学や代替医療を重んじ、具体的には漢方薬を飲んだり、鍼を打ったりして予防や治療をしていたということがありました。


アメリカ政府は驚いて、NIH(米国立衛生研究所)に代替医療調査室をつくり、項目の分類をしています。代替医療の1番目は、アーユルヴェーダなどの伝統医学です。2番目は食事療法。医療の基本は食事です。心臓の手術で有名な「サーモ大学」や「スタンフォード大学」の研究でも、「食事に気をつけていれば、心筋梗塞の3分の1は予防できる」というデータも出ています。食事をどのようにとるかというのは、ひじょうに重要です。医学の基本は、食事。栄養にあるのです。わが国では、この辺は遅れていて、医学全体の講義の時間を仮に1万時間とすれば、栄養学はわずか4〜5時間程度。あるかないかで、ほとんど無視されています。3番目は、抗酸化剤など。いろんな薬が出ています。4番目は、ハーブ、薬草です。いろんな薬草がこれから出てきます。5番目は、指圧やマッサージなど。6番目は磁気、磁石です。地球というのは弱い磁石の固まりで、人間の体の中も磁石を発生している。脳の磁石を計ってやるともっと正確に脳の中が分かる。磁気はとても必要です。7番目は、心。心と体というのは表裏一体で、病気も心の持ち方一つで良くも悪くもなるといわれるように、心のあり方は大切です。今までは一括りに精神療法と呼ばれていましたが、最近ではヨガ、お祈り、イメージング、ユーモアと療法も多様になっています。


筑波大学の名誉教授村上先生が吉本興業へ出かけ、実際にタレントの皆さんの血糖値を測って、ひとしきり笑ってもらい、2時間後に再び測ってみると、血糖値が下がっている。その理由は遺伝子のスイッチが入ったということをつきとめ、さらにユーモア療法によって今まで分からなかった病気が治ったというような報告までされています。またビデオを見ながら、「私はガンに負けない」と強くイメージすることでガンに打ち克つという療法です。今まで医学では取り上げてこなかったさまざまな治療法を総合的に活用して病気を治していく。こうした統合医療こそが「医学の革命」であると私たちは考えています。


これら代替医療の中でももっとも重要なのはどんなものなのか。そのトップが「スピリチュアリティ」、祈りと瞑想です。これはアメリカで234本の報告を集め、上位の20を調べた結果です。スピリチュアリティとは、霊性とか霊魂といった意味ですが、代替医療としては「お祈りをする」「瞑想に耽る」ことを意味します。2番目が「サポートルーム」。ガンになった時、患者さんが悲嘆にくれていると、ますます悪くなる。そこで、励ますことで良くしようと、友達が集まる。兄弟が集まる。この集まって励ますことが「サポートルーム」です。3番目は「リラックス」。これも重要です。4番目は「ハーブ」。薬草です。5番目は「イメージ療法」。これも必ず出てきます。6番目は「鍼、指圧、アロマテラピー」。これらはアメリカにおける「代替医療」ですが、医学の見地からすれば意外なものばかりが集まっています。「代替医療」の分野では、世界でもアメリカが一番すすんでいて、国が応援しています。


そこで私は、こうした「お祈り」など宗教的なことがほんとうに病気の治療に役立つのかを確かめたくてフランスとスペインの国境にあるピレネー山脈のルルドの泉を尋ねました。ここに伝わる逸話ですが、一人の娘がいて、目の見えない母親がいます。娘がお母さんの目を開いてほしいと毎日祈り続けていると、ある日マリアさまが現れて、ルルドの泉に行って目を洗い、水浴びをすれば治るといわれます。さっそく行ってみると、そこには岩山があって、右手奥に湖があります。岩山は600mの標高で、湖には1年間1mの早さで水がしみ込んでいきます。だから、今飲んでいる水は600年前の水ということになります。この岩にはきっとミネラルとかビタミンとかいろんなものが含まれているのでしょう。そういうものが作用して、体が良くなるのではないかといわれています。ルルドの泉に来た人は、まず水風呂に入ります。神父さんやボランティアの人が患者さんを裸にして、冷たい水風呂に入れます。


ルルドの泉には世界中から患者さんがやって来ます。なかには車椅子で来る人もいる。年間では何百万人にものぼります。ルルドの泉の医師団の人に聞いてみますと、約160年前からきちんとデータが取ってあるといいます。毎年、有名な病院(業績20〜30年、医師50人以上)をセレクトし、カルテの確かな患者さんだけを迎えています。この160年間で、病気が治った患者さんは約60名。160年間、1年何百万人もの患者さんを受け入れて、治ったのがわずか60名ではちょっと少な過ぎる。西洋医学も情報科学も、そんなのは無視すべき数字だといいます。しかし、立派な病院でもうダメだといわれた人が奇跡的に治って、元気に歩いて帰る。そんな人が60人もいるというのは不思議でもあります。この事実を不思議と思って研究するか、ゼロに等しいとして無視するかで、医学は大きく分かれます。無視するのが西洋医学、研究するのが統合医学です。